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Interview
In Lapidem Lapidem 相馬順子

with Lapidem 006:相馬順子(コンセプトアジア代表取締役)

相馬順子さん(コンセプトアジア代表取締役)は、スパコンサルタントとして世界各地の超有名スパの立ち上げに携わりつつ、日本におけるスパの認知向上や啓蒙、市場拡大に多大なる貢献をされてきた、”日本スパ界のゴッドマザー”とも呼ぶべき方。ラピデムも「六花スパ(雪ニセコホテル)」を始めとする様々なスパオペレーションで、相馬さんに多大なご協力をいただいています。

また、相馬さんはラピデムが重視する「ウェルネス」の分野にも早くから着目され、2017年より世界のウェルネス産業のトップリーダーたちで形成される国際会議『グローバルウェルネスサミット』のアジア初のボードメンバーに着任。現在はスパだけでなくウェルネスの領域までその知見を広げ、次々と先進的な取り組みを行っています。

今回は、日本のスパ・ウェルネス業界を黎明期から見つめてきた相馬さんに、これまでの業界の歩みとこれからの展望について語っていただきました。


友人との縁をきっかけに、専門外のスパ業界へ

――相馬さんは大学卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務され、退職後は経営者や投資家としてご活躍されていたとうかがっています。スパ業界と接点を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

それが、まったくの偶然なんです。コンサル会社をやめたあとに入ったフランスのビジネススクールのクラスメイトに、「スパ事業の会社のアジア法人を立ち上げたいから投資してくれ」と頼まれ、共同設立したのがコンセプトアジア社でした。

彼女は北海道の「ザ・ウィンザーホテル洞爺」に日本初の本格スパ「ウィンザー・ブルームスパ」を導入した、日本にスパ文化を持ち込んだ第一人者なんですけど、私は恥ずかしながら、彼女に会うまでスパという業態があることすら知らなかったんです。彼女の名代としてミーティングに出席しても、宇宙語の会議に出てるみたいな感覚(笑)。でも共同設立者になった以上は全力を尽くして事業を成功させなければ…との思いで、バリのマンダラ・スパやアメリカ・コーネル大学などでスパ事業の経営やオペレーションについて必死に学びました。

そうして、2004年にザ・ロイヤルパークホテル・アイコニック東京汐留に「マンダラ・スパ」をオープンさせたのを皮切りに、「ザ・スパ・アット・マンダリン・オリエンタル・東京(マンダリン・オリエンタルホテル東京)」、「ル・スパ・パリジエン(ウェスティンホテル東京)」、「Evian Spa Tokyo(パレスホテル東京)」「Okura Fitness & Spa(ホテルオークラ)」などをオープンさせました。このころ、五つ星ホテルが新規オープンするときには必ずスパが併設されていたんです。

「ホテル+スパ」というスタイルは不況から生まれた

In Lapidem Lapidem 相馬順子

――「旅館には温泉」と同じような感覚で、「ホテルにはスパ」という文化が日本に根付き始めたのですね。欧米ではもともと当たり前のものだったのでしょうか?

アメリカのラグジュアリーホテルにスパが併設されるようになったのは、1987年のブラックマンデー(ニューヨーク株式市場の大暴落)で、アメリカ経済が暗黒期に突入したのがきっかけでした。ホテル業界が起死回生をはかるために様々なアイディアを模索する中、コーネル大でホテル経営を専門とする教授にこう言われたそうです。「リサーチしてみたら、あなたたちのお客様の約60パーセントが、精神的に不安定な状態になっていることがわかった」と。この提言を受けて、ニューヨークのWホテルがスパ施設を併設したのが、「ホテル+スパ」というスタイルのはしりだと言われています。

それまで外見やおいしいもの、楽しいことににお金を投じてきた人々が、不況というピンチに遭遇したことで自分と家族の健康がいかに大切かに気づき、そこに目を向けるようになった。そしてスパが一気に注目されるようになったんです。

――コロナ禍における昨今の日本でも、心身の健康に対する関心がとても高まっている印象を受けます。

そのとおりですね。人々のマインドがかなり変わってきていると思いますし、コロナ禍を機に、スパという業種自体もとても成長したと思います。ただ、いろいろな方とお話ししていて「まだまだだな」と感じるのは、スパをエステと勘違いされている方が非常に多いこと。スパは美容でなくウェルネスの領域にあるものなんですけど、それを理解している人はまだ多くないですね。

――改めて、エステとスパの違いについて教えていただけますか?

体の外側からアプローチするエステは、いくらいい化粧品を使っても、いくら素晴らしい手技を使っても、限界があります。なぜなら、ストレスで眠れない人は本当の意味では綺麗になれないから。一方、体の内面やメンタルにまで働きかけられるのがスパ。スパが儀式……私たちは「スパ・ジャーニー」という表現をしますけど、施設の雰囲気やプログラムの導入を大切にするのは、施設に踏み入れた瞬間に「別世界にいる」と感じさせ、心の底からリラックスしてもらい、心の奥底にあるストレスやトラブルにまでアプローチすることが目的だからです。ただこれ、20年くらい言い続けていることなんですけど、まだ一般層にまで浸透していないのが寂しいですね。

スパは女性だけのものではない

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2019年にシンガポールで行われたグローバルウェルネスサミットでは日本人初の共同議長に選出された

――確かに、健康や美容に関するアンテナがさほど高くない人は、スパというものを遠い存在ととらえているようにも感じます。今後、スパ業界がさらに広がるための課題は何だと思いますか?

日本はまだ「スパは女性のもの」というイメージが根強いとは感じますね。欧米では忙しい男性こそスパを利用するのが当たり前で、リーダー層は、世界を飛び回る合間に各国のスパに一人でふらりと訪れて、心身を休めています。でも日本の男性にはそういった感覚があまりないのが現状です。

数年前に、男女さまざまな年代の方々にグループインタビューを実施したんですけど、ある経営者の男性が「女性はストレスを発散する場所がたくさんあるけれど、男性は意外とない。ホテルスパも男性お断りのところが多いし、OKなところもフェイシャルなど女性向けのメニューばかり。一番癒やされたいのは僕らなのに」とおっしゃっていたんです。それを聞いて「ああ、こういう日本を引っ張っていく人々を癒やさないと」と実感しましたね。このご意見を取り入れ、ユニセックスさを押し出した作りとした「Okura Fitness & Spa」は、男性にとても多く利用していただけるスパになりました。今後もこういった施設を増やしつつ、世間一般の認識を変えられるようにがんばっていきたいです。

――これからの業界の成長が楽しみになりました。

日本のスパ業界は始まって20年足らずの若い業界なので、すごく未来があると思いますよ。私も気づいたらスパ界の大御所なんて言われるようになってしまいましたけれど、チャレンジしたいという方々を歓迎して、できる限り助けてあげたいと思っています。

例えば、セラピストの労働環境の整備と地位向上も私の仕事の一つだと思っています。セラピストって、体だけでなく心にまでアプローチする本当にすごい能力を持っているし、その能力を得るまでにすごくトレーニングしてきているのに、雇用側がその力を正当に評価していないと感じることがすごく多いんです。私はこの業界はセラピストあってこそのものだと思っているので、例えばホテルが「閑散期だからセラピストのコミッションを減らす」なんてことを言ったら、黙ってはいません。

――それは心強いです。

この国にはすごく優秀な女性がたくさんいるのに、上位を仕切っている男性たちに不当に扱われている姿を見るとすごく心が痛むんです。セラピストも、海外のスパに行ったらものすごい高待遇で迎え入れられるような実力を持っているにも関わらず、低い賃金で働いている人も多いのが現状。以前私が立ち上げた国内のホテルスパで勤務していたセラピストが、ある世界的なリゾートホテルグループのスパ・ウェルネス部門の統括ダイレクターになったという例もありますし、もし日本が合わなかったら海外に飛び出すという選択肢もあるということは、セラピストの方々には知っておいていただきたいですね。

日本ならではのウェルネスに着目すべき

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日本のウェルネスは世界中で高い注目を集めている

――その他、これから挑戦したいことはありますか?

これまで私は、アメリカの総合スパメディア「スパ・ファインダー」の日本語版を立ち上げるなどして、海外のスパ情報を日本に入れるということに注力してきましたが、これからの時代は、日本特有の文化や精神性に目を向け、しっかりマーケティングし、世界に送り出していくことが大事だと思います。

2018年のグローバルウェルネスサミットでは、オックスフォード大の教授が「本当のブルーゾーン(長寿地域)は日本にあるのでは」と話していました。世界中のリーダーやセレブリティたちも、日本にとても注目しています。

――俳優のブラッド・ピットさんも、8月の来日で行った厄除けを大絶賛していましたね。

グローバルウェルネスサミットのイベントで、禅寺で座禅と精進料理を体験できる権利をオークションに出品したら、一人2500ドルで4人分が落札されたんですよ。びっくりしました(笑)。日本ならではの健康意識…「ジャパン・ウェルネス」と呼ばれる分野は、日本を拠点に事業を行っている人々こそ着目すべき観点です。外国人観光客の入国規制もどんどん緩和されていっていますし、スパ業界も忙しくなると思いますよ。

――身が引き締まる思いです。

そして、人々の意識が外見の美しさから内面の健やかさにシフトする傾向は、これからもっと強くなっていくと思います。私は今、アメリカ屈指の規模を誇る総合病院「クリーブランドクリニック」のウェルネス研究所に投資をしているんですけど、加齢は病気であり、防げるものなので、しかるべき治療を行えば90代が40代と同じように活躍できるようになるという主張をしているんです。といっても、手術をするとか薬を使うわけじゃないんですよ。運動して、生きがいを持って過ごして、不足している栄養素はしっかり補うという、けっこう当たり前のこと。

平均寿命が100歳を超えると言われているこの時代、生きていられる限り元気でいられるって最大の投資だと思うんです。スパ業界も、こういった領域にまたがるようなサービスやアイディアを使っていたら、より面白くなるんじゃないかなって思います。

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プロフィール

相馬順子(そうま・よりこ)

青山学院大卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。コンサルタントとしてアジアの富裕層向け事業を担当した後に独立し、国内外で様々な会社を立ち上げたのちに、2002年にコンセプトアジア社を設立。国内外のスパ立ち上げに携わりながら、業界誌『スパ・ファインダー・ジャパン』、総合ウェブサイト『スパ・ヴィータ』などで国内スパ業界の啓蒙にも尽力した。現在は、スパを含むウェルネス事業全般にその領域を広げ、温泉の再開発やウェルネス関連製品/施設の企画・運営に携わっている。2児の母。