with Lapidem 010:リィッタ・コスギヴィルタ(セラピスト兼プラクティショナー)
世界幸福度ランキングで6年連続1位を獲得し、近年はサウナ文化などでも注目度が集まるフィンランド。今回のIN DEEP LAPIDEMではこの国で40年にわたってセラピストとして活動する、リィッタ・コスギヴィルタさんにスペシャルインタビューを行いました。鍼灸、指圧、リフレクソロジー、マインドフルネスなどの様々な手法で人々の健康と幸せに尽力し、自身も幸せに生きるリィッタさんの言葉は、セラピストだけでなく現代を生きるすべての人に響くものでした。
お客様のためでもあり、私のため。そう思いながら仕事をしている
——リィッタさんのどのような経緯を経てセラピストになったのですか?
この取材を受ける前に自分の記憶をたどってみました。そうして、小さな出来事がいくつも連なって今の私がいるのだなと改めて感じました。20代のころ、私は理学療法士を目指していました。当時、フィンランドでは理学療法士の需要が高かったのです。そして25歳のときに理学療法士として仕事をし始めましたが、次第にこの仕事があまり好きでないと思うようになりました。
何か別の道はないだろうかと思っていたときに、専門家向けの雑誌で見つけたのがSHIATSU(指圧)の教室。指圧がどういうものか知らずにとりあえず教室に通ったのですが、私はこの施術がとても気に入りました。首、肩、ヒザといった痛みがある場所のみにアプローチする理学療法士のやり方にはあまり興味を持てなかったのですが、指圧は体全体をケアします。床の上で、お客様と同じ高さで施術ができるところもとても気に入りました。
そして、同じ頃に学び始めた東洋医学が私の好奇心の火種となり、炎になったのだと思います。当時私は母親になったばかり。フィンランドは出産後3年間、無給の育児休暇を取ることができ、4人の子どもがいる私は10年ほど家にいたのですが、その間にリフレクソロジーや指圧、漢方など、セラピーに関するありとあらゆることを勉強していました。
そして、仕事に復帰するときになって「自分のやりたいことをやりたい」と思いました。自分自身のやりがいを大切にし、誰かのためだけに身を削ることはしたくなかったのです。心身の経験を誰かと共有しながら働きたい。このような光が私を導き、セラピストが私のライフワークとなりました。
多くのセラピストは、自分自身が何かのセラピーを受けたことをきっかけにこの職につきますが、私にはそれがありませんでした。ただ好奇心だけが私を導いてくれたのです。
——なぜリィッタさんの好奇心はセラピストに向いたのでしょうか?
なぜなのでしょうね。私の家族に同じような仕事をしていた人はいないですし、まったく分からないです(笑)。一つ思い当たるのは、とても肌が敏感なことかしら。私は肌を通して物事を強く感じ取ることができるので、お客様の状態を理解することができるのかもしれません。
——セラピストとして大事にしていることはどのようなことですか?
お客様のためでもあり、私のため。そう思いながら仕事をしています。仕事を通じてマインドフルネスを実践しているとでも言いましょうか。1つひとつのモーメントを大切にすること、そして余計なことを考えないことが指針です。喜びを感じないことはしません。何をしているときでも、クリエイティブな喜びと幸せを感じることが大切だと思っています。セラピストは健康や幸福をダイレクトにお客様に届けることはできませんが、よりいい気分や喜びを感じられる状態に導くことはできる。喜びと幸せ。これが私にとって何より大切なことです。
——リィッタさんを訪ねるお客様はどういう方が多いですか?
フィンランドでは、自身の健康に関心を持っているのはたいてい中年の女性です。なので私のお客様も35歳から80歳くらいの女性が多いです。赤ん坊の治療や、死のサポートといった人生の最後の瞬間のケアを行うこともありますし、出産を手伝うために病院に行ったことも何度かあります。
——彼女たちはどんな悩みを抱えていますか?
彼女たちは「肩が痛い」「首が痛い」「腰が痛い」といった理由で私のもとに訪れますが、話を聞いてみるとそれが悩みのすべてではないことがわかります。みな、自分の心や健康や幸福について懸念を持っていて、治療中に「仕事に疲れた」「家事がストレスなの」「変わりたい」と話し出す。私の仕事はこのように、ごく表面的な問題から人間としての底に深く潜っていくことが常です。
——リィッタさんの考える「ウェルネス」について教えてください。
私は日本語の「イキガイ」という言葉がウェルネスだと思っています。ウェルネスとは自分の好きなことをすることであり、それでお金をもらい、生計を立てられればさらに幸せだと。ウェルネスとは、自分の人生に目的と意味を見出し、物や持ち物に執着しないということです。自分の体を尊重し、自分の心を尊重し、自分を大切にし、自分を愛するということです。
ウェルネスは一人では手に入れられません。人が幸福に生きるためには他者の存在が必要で、それぞれが抱える心身の問題を分け合いながら、共に良き人生を送ることが人生における大きなコンセプトなのです。「WELLNESS」と「ILLNESS(病気)」はほとんど同じつづりだけど、ウェルネスは “WE(私たち) “で始まり、イルネスには “I(私) “しかいない。ウェルネスという言葉にはコミュニティが含まれていて、だからこそ誰かと一緒に取り組むべきものなんです。
——日本ではセラピストや代替医療の地位が高くありません。フィンランドではいかがですか?
今年フィンランドで発表された調査によると、フィンランドでは国民の約半数以上の人が何らかの代替医療を利用しているそうです。フィンランドではサウナが代替医療の一部として考えられていて、560万人の人口に対して330万個のサウナがあるの(笑)。サウナ以外だと、氷の中で泳ぐ「アイススイミング」を日課にしている人も15万人くらいいます。古くから伝わるヒーリングセラピーの一つです。
――話の腰を折ってすみません。アイススイミングは、サウナに入った後に行うという認識でいいんですよね?
サウナを使わず、ただ氷水に浸かる人もけっこういます。サウナのすぐ隣の湖の氷に穴を開けて、水が凍らないような処理をしている有名なサウナ施設があるんだけど、私はここに行くと氷水に入ってからサウナに行き、また氷水に入るの。 氷の湖で少し泳ぐこともありますよ。
——思わず背筋が震えました(笑)。引き続き、お話を聞かせてください。
OK。フィンランドでもセラピストという職業はあまり高く評価されていません。ルールも規制もないので、誰でも好きなことができます。政府はセラピストに関わる法律を変えようとしてきましたが今のところ何も変わっていないので、セラピストは自身のモラルと倫理観に基づいて仕事を行っています。
フィンランドは元々ヒーラーとマッサージの歴史がとても深く、人々はいいヒーラーにかかるために別の村まで足を運び、治療を受けていました。私がマッサージを始めた1980年頃は、誰もがこのような古い方法を知っていたと思いますし、私の家におばあさんやおじいさんがやってきてマッサージを行うということもよくありました。こういった背景もあって、私は「公式なヒーリング」と「非公式なヒーリング」の間にある厳格な境界線をあまり気にしていません。
セラピーセッションから得たものが最高のトリートメントにつながる
——リィッタさんは様々な技法を用いてセラピーを行っていますが、フィンランド固有のセラピー道具「ソープストーン」について教えていただけますか?
ソープストーンについては語りたいことはたくさんあるんだけど、今回はフッカストーンの美しさに焦点を絞ってお話しします。この石の最も素晴らしい点は、柔らかい肌触りです。この石はまるで皮膚のように柔らかく、ベルベットのようななめらかさがあって、お客様が石で触れていることに気づかないくらいです。もうひとつは、大切に扱えば半永久的に使えるということです。私はお客様に「この石を買ったら、自分が死んだときに子どもや親戚に墓まで持っていってもらえるよ」なんて冗談をよく言うわね(笑)。
フッカのソープストーンは、私の生まれ育った土地から40キロほどの場所で採掘されているので、私の故郷の一部でもあるんです。28億年前の石とはいえ、地表に近くにあるので採掘しやすいし、加工もしやすい。また、この石が内包する暖かさの質は他の安価な石とはまったく違います。私は以前、玄武岩のマッサージストーンを使っていたこともあるのですが、お客様から「玄武岩の熱はとても鋭いけれど、ソープストーンの熱はとても滑らかで心地よい」と言われました。また、食器洗い機で洗うことができ、特別な洗剤で磨く必要もなく、とても実用的です。雪の降る屋外に置いておいても割れません。
——雪国のフィンランドの気候に適した石なのですね。
もちろん、セラピストの大きな力にもなりますよ。 手は疲れるかもしれませんが、石は疲れませんから。また、ある部分を温めたいときに置き石のような使い方もできますし、石のいろいろな部分を使ってマッサージしたり、手を温めたりと、使い方は無限です。もちろん、筋肉痛をほぐしたり、リラクゼーションを得たりといった私たちがよく知っているような効果もあります。
でも私はやっぱり何よりも、この石が持つ滑らかさが好きね。他のどの種類の石よりも優れていると思います。以前は、天然石に勝る石はないと思っていた時期もありましたが、今ではすっかり考えが変わりました。フッカの石は、天然石よりもはるかに優れています。なぜなら、この石は私たちが望む形に成形することができるからです。私が今使ってるストーンは、厚すぎもせず、薄過ぎもせず、正確なサイズと形になるように相談しながら作ってもらったもの。私の手にフィットするように作られたこの石は、私のセラピーワークに欠かせないものです。
——リィッタさんは11月に来日し、セラピスト対象のストーンセラピーの講習を実施します。日本の受講者にどのようなことを伝えたいですか?
今回は「フッカ・ヒーリングの基本コンセプト」とでも呼びたい、全身トリートメントを含むコースをレクチャーします。このコースでは、石を温める方法や置き石の使い方、もちろんマッサージについても説明します。石の新しい使い方を発見する楽しみを知っていただきたいです。
講習は、最初にフッカストーンについてお話しして、私がデモンストレーションして、受講者と一緒に練習するという流れを予定しています。 受講者が石でトリートメントする感覚をつかむために、実技にはしっかり時間を使います。当日は様々な形や大きさの石を用います。講習の途中には驚くこともあるかもしれませんが、私の指導の意図は、受講者がマッサージを学び、フッカストーンを素晴らしい道具だと思えるようになることです。お客様とのセラピーセッションからより多くのものを得ることが最高のトリートメントにつながるという感覚をつかんでもらいたいです。
私はフッカ・ヒーリングはただのトリートメントでなく”トリートメントの中にあるアート”だと考えています。受講者はただ新しいテクニックを学ぶだけだと思うかもしれませんが、私のコースでが伝えるのはテクニックだけではありません。なぜなら石はとても強力な道具ですから、少しでも深く知ることが大切だからです。例えば、ホットストーンのトリートメント中、私はをいきなり石をお客様の肌に使うことはしません。まずは手の甲をお客様の皮膚に当て、少し滑らせてから石に触れます。こういったささいだけど大切なことを、私のレクチャーを通して学んでもらいたいです。私自身、日本に行くのは初めての経験なので、どんな体験ができるか楽しみですし、お客様、そしてセラピストの幸福を促進するという共通の興味を持つラピデムのみなさんと、オンラインミーティングでなく直接つながれることもとても楽しみにしています。
リィッタ・コスギヴィルタ(Riitta Koskivirta)
フィンランド在住のセラピスト兼代替医療の指導者。西洋の基礎教育に東洋医学のエッセンスを融合させたユニークな手法で、40年にわたり様々なセラピーを実践している。4児の母であり、6児の祖母であり、妻。フッカソープストーンが採掘されるカレリアン地方の湖のほとりに住んでいる。
■講習の案内
リィッタさんが講師を務める「フッカ ヒーリングストーンセラピー セラピスト認定講習」を以下の日程で行います。フッカ ヒーリングストーン認定セラピストとしてのディプロマを取得し、フィンランド在住のリィッタのレクチャーを日本で受けられるまたとないチャンス。意志と愛にあふれたセラピストのみなさまの受講をお待ちしております。
フッカ ヒーリングストーンセラピー 基礎コース(2日間)
【日程】11月16日~17日 10:00~17:00
【場所】滝川エスティック会館(東京都台東区三筋2-24-8)
【定員】20名
【講習料金】178,000円(税込)※テキスト代を含む
【ディプロマ費用】25,000円(税込)※事務手数料を含む
フッカ ヒーリングストーンセラピー スペシャリストコース(1日)
【日程】11日18日 10:00~17:00
【場所】Lapidem Tokyo Spa(東京都港区赤坂6-16-4)
【定員】6名
【講習料金】120,000円(税込)※テキスト代を含む
※リッタさんの希望で、スペシャリストコースは基礎コースを受講された方のみ対象となります