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Interview
Lapidem 活法 kappou 奥田亮太郎 Ryotarou OKuta

with Lapidem 004:奥田亮太郎(治療家/活法三位一体療法教導師)

「すべての原動力は”人を助けたい”という思い」

日本発のスパブランドとして、日本の誇るべき文化や精神を世界に伝えたい――。

そんな信念を持っているラピデムでは、そのプロダクトやサービスに、日本に古来より伝わる治療術や”癒やしのエッセンス”を豊富に取り入れています。

戦国時代、戦場で傷ついた人々に施された医術をルーツとする「活法(かっぽう)」もその一つ。

直営サロン「ラピデム・トウキョウ・スパ」では、トリートメントブログラムの導入部分に関節をゆるめる活法の手技を取り入れています。

今回は活法の使い手で、ラピデム代表の近藤がメンターとしても絶大な信頼を寄せる奥田亮太郎先生に、治療家としてのマインドセットや、日々の生活をより良いものにするヒントをうかがいました。


戦乱の時代に生まれた、短時間で人を活かす秘術

――「活法」という術は、世間一般に広く知られたものではありません。どのようなものなのか、簡単に教えていただけますか?

活法は長らく一子相伝・門外不出の術で、文献などが一切残されていません。そのため正式な起源はわかっていないのですが、戦国時代、人を殺める「殺法」の裏技である”蘇生を目的とする術”として生まれたとされています。清潔なスペースや薬などがまともにない戦場で負傷者した人や、激しい稽古で負傷した人を素早く動ける状態にすることを目的としていました。私が使う碓井流活法は、北辰一刀流で有名な千葉家が伝えてきた活法をベースとしたものです。

――戦場で使われた医術が、現代の治療にどのように生かされているのでしょうか?

いわゆる「整体」や「マッサージ」は、体をベッドに横たえ、まとまった時間を使って、足元から頭部まで、うつ伏せから仰向けまで筋肉をゆるめていくという手法が主流となっています。一方、剣術を含む武術全般から発祥した活法は、素早く原因を突き止め、それを取り除いて、短時間で「動作」を回復させてしまうのが大きな特徴です。「動けない=戦えない」であるからですね。

――戦場では、甲冑を外して長時間治療する余裕はないですものね。

はい、戦う人もそれを治療する人も斬られてしまいますから。1つの手技を、時間にして数秒行うだけで状態が改善する人もいます。

――奥田先生とラピデムが出会ったきっかけは何だったのですか?

私の勤務先を退職したスタッフが、ラピデムさんのセラピストになったことがきっかけです。ラピデムさんでは当時、癒やしだけでなく治療のニュアンスを含むトリートメントプログラムの開発中で、そのスタッフの紹介でプログラムの内容や手技をアドバイスさせていただきました。

――癒やしからさらに進んだ場所へのアプローチを目指すサロンは、日本では稀です。

スパやエステなどといった癒やしの業界にいる方は、「癒やしと治療は別物」と考えられている方が多いように感じますが、私個人はこの2つは同じ領域にあって、セラピストも治療の一端に関われると思っています。ラピデムさんのように癒やしと治療の双方にアプローチしているサロンの存在はとても貴重ですし、素晴らしいと思います。

人の手一つで誰かの人生を変えられる仕事

――奥田先生が活法と出会ったのはいつですか?

治療家を志したのは28歳、活法と出会ったのが31歳です。

――まずは治療家を目指したきっかけからうかがえますか?

奥田:ドライバーとして勤務していた会社で、腰を痛めたことがきっかけでした。整形外科の先生からドクターストップがかかった状態で仕事を続けていたら、まともに歩けない状態になってしまったのですが、仕事で知り合ったカイロプラクティックの先生にかかったら、一回の施術で治った。「道具を使わず、人の手一つで誰かの人生を変えられるってすごいことだな」「僕にも同じことができるのだろうか」と思って会社を退職し、先生から紹介された学校で治療家としての勉強をはじめました。

早く治療家としてお金を稼げるようにならなければ…と、朝から晩まで実技の授業を入れ、普通なら2年間かかるカリキュラムを1年ちょっとで修了。同じ学校のOBたちがやっている整体サロンに勤めることになりました。学校を出たてのひよっこでは戦力にならないとわかっていたので、院長さんに「お給料はいらないので勉強させてください」と直談判して。他のアルバイトを3つ掛け持ちしながら、1年ほど無給で勤務していました。いわゆる「丁稚奉公」ですね。今ではあまり考えられない働き方です(笑)。

――行動力に感服です。活法に出会われたきっかけについてもお話を聞かせてください。

当時私が行っていたのは、足元から頭までうつ伏せと仰向けで手技をかけていくオーソドックスな整体。働き始めの頃は、お客様の状態がなかなかよくならず、百戦錬磨の先輩方との経験値の差を承知しつつも、「このやり方で本当に困っている人を助けられるんだろうか?」と思い悩むことが多かったです。

そんな折に、通勤中の交通事故で肩を亜脱臼したんです。勤務先の先生方に治療してもらったのですが、サロンに在籍している18人の先生全員にやってもらってもまったく治らない。藁にもすがる思いで、最後の先生に診てもらったら、たった三種類の手技で痛みをとってくれました。

その先生は私の2歳下で、治療家としてのキャリアが長いわけではありません。それなのに、たった一回の施術で自由に動けるようにしてくれたので、「なんだこれ?」と大きな衝撃を受けました。これが活法だったんです。これなら私でも人を助けることができるかもしれないと思い、その2年後からお師匠の先生に師事し、活法を学び始めました。

――先程、私も腰痛を立ったままの姿勢で1分足らずで治していただき、大変驚きました。その後はどのようなキャリアを歩まれたんですか?

自分の治療家としての力量を試したいとの思いでサロンを退職し、知人から紹介してもらったジムのオーナーに「治療家として雇ってもらえないか」と相談しました。最初は「整体師は余っているから」とお断りされたんですが、1対1でいろいろお話しさせてもらった末に採用にこぎつけました。

治療を担当するスタッフはすでにたくさんいましたし、活法のことをよく知らない人からは「あんなものは整体ではない」と言われることもありました。「活法の正しさを証明しなければ、ここでは働けない。結果を出さなければ…」と考えた私は、30分の無料トライアルを1週間限定で実施しました。

先にもお話したとおり、活法は短い時間でも効果が発揮できる治療法。加えて、師事した先生が活法のピラミッドの頂点にある術を学びの最初の段階で伝授してくださったこともあって、のべ100人以上のお客様を施術し、ご好評をいただきました。その結果、私独自のプログラムメニューを設置させてもらえることになりました。

――活法を体験したお客様からはどのような感想を受けましたか?

「命の恩人」という言葉をかけてくださった方のことは、強く印象に残っています。その方は目に見えるような病気やケガをしているわけではなかったですけれど、施術によって日々の不調が改善されたことで、そのようにとらえてくださったのだと思います。スポーツをされている方から「成績が上がった」、歌手の方から「声が出るようになった」というお言葉をいただいたこともあります。

与えられるの待つのではなく、自らが与えるという意識

――奥田先生が治療家として大切にされているのはどのようなことですか?

最高のものを最初に提供することで、人を活かし、自分を活かすことです。何度も通ってもらうことを前提にして、回数券を販売するような治療院もありますが、私は一回、しかも短時間の施術でよくなればそれに越したことはないと思っています。なぜなら、私が欲しいのは売り上げではなく、お客様さんがよくなったという事実だから。「お金をもらってから活かす」ではなく、「活かしてからお金をいただく」という考え方で、「今から何をしてあげたらこの人は活かされるだろうか」と考えて施術すれば、お客様は気持ちよく帰っていただけるし、「またあの人にかかりたい」という信頼関係が生まれるのだと思うんです。

「活かす」という言葉には、お客様の痛みをとったりできない動きを減らすといったことだけでなく、実生活の中でもお客様が活きる…例えば会社でいい活躍ができるようにするというところまで含まれています。症状がよくなったら終わりではなく、その人が別の場所で中心となって活躍できるようにするところまで考え、身体の心の両方が調和した状態を作ることが大切だと思っています。

また、痛みや悩みを抱えているお客様の心のバリアを解き放つために、振る舞いや話し方もかなり訓練しました。会話するときの視線の位置や、照明の落とし方、タオルのかけ方といった一見些細なことにも目を向けて、一瞬でお客様の緊張をほぐす。そういった工夫を感じ取ってくださったお客様から「人と接する上での心構えを知りたい」とご依頼されることもありますし、学校の先生や心理カウンセラーの方に「表現の仕方がすごく勉強になります」と言われたこともありますね。

――いろいろな学びをお仕事に取り入れられているのですね。原動力は何なのでしょうか?

人を助けたい。それだけです。私は活法と出会い、これを携えたことで人生を助けられたので、「月に何100万も稼ぎたい」というような願望はありません。もちろんお金はあれば越したことはないけれど、決して僕の活きる力にはならないので。

人は時や状況によって変わります。目の前のお客様と出会える瞬間はいつでも一度しかありません。そう考えたら自然と「今日私がこの人を見る意味がある」「私にしか助けられないんだ」と思い、学びを深めたいという思いが強まるんです。

――今後やってみたいことや目標などはありますか?

活法には「術理道法」という言葉があります。” ただ淡々と、助けを求めてやってきた人の痛みや不安を取り除き続けるのが活法である”という意のこの言葉に従い、これからもたくさんの人を助け続けるしかないと思います。

Lapidem 活法 kappou 奥田亮太郎 Ryotarou OKuda

今、自らの意思で物事を選び取る力が求められている

―――この記事を読んでくださっている方に、自分を活かし、他人を活かすためのアドバイスをいただけますか?

お客様と接する中で、自分で物事を選択することの重要性を強く感じています。「みんながいいと言ってるからやってみよう」「あの人がダメだと言うからやめよう」というように、他者の目で物事を選択し、消去法で何かを選び取っている人がとても多いんですね。社会的なルールを無視しろというわけではないですけど、少なくとも自分の領域や生活の範囲ではいくつかの選択肢を用意して、自分で選んだものを自分で信じたり、許したりする力がとても大事なんじゃないかと思います。自分で選択することで自分自身を活かせる人間になれるというのが私の考え方です。

――セラピストとして働く人々にも、何かメッセージをいただけると幸いです。

「今いる場所で自分は何をする人なのか」「自分は何者なのか」と自分自身に問い、その答えを心に定めることが大切です。私は、心と体のことで悩んでいるすべての人々を助けると決めていますし、まわりの方にそう言い切るよう心がけています。

また、セラピスト自身が「自分は助かっている。満たされている」という心持ちでいることも大切です。なぜかというと、術をかける側の人間が「助かりたい」と思っているうちは、他の人を助けられないから。今振り返ると、私が駆け出しのころうまく成果を出せなかったのは、貧乏で食べるのにも困るくらいだったからだと思うんです。「衣食住が満たされ、普通の生活を送れていることが幸せだ」という意識を持った上でお客様に対応するのはとても大切なことだと思います。

もう一つ、治療や癒やしに携わる人には、「第六感」と呼ばれるインスピレーションが欠かせないというのが私の持論ですが、これを磨くためには、「触覚」「視覚」「嗅覚」「味覚」「聴覚」の五感すべてを研ぎ澄ます必要があります。お客様と出会った瞬間からトリートメントがスタートしているという感覚を持ち、少しでも好きや色気、慢心を持ったら一瞬で信頼を失うという緊張感を持ちながらお客様と向き合い、「ここに来るという選択をしてよかった」と思っていただけるようなものを提供してもらいたいです。

Lapidem 活法 kappou 奥田亮太郎 Ryotarou OKuta

プロフィール

奥田亮太郎(おくた・りょうたろう)

神奈川県横浜市出身。北里大学衛生学部を卒業後、一般企業に就職。28歳で治療の道を志し、現在は碓井流活法 三位一体療法教導師。さまざまな悩みを持つ人を活法で助けるべく、ホテルニューオータニ東京内のサロン「フォルトゥーナ」で腕をふるっている。