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Interview
ROOM810 伊藤巧さん 土屋奈緒さん

with Lapidem 008:伊藤巧&土屋奈緒(デザイナー/ROOM810)

ラピデムでは2月に、2ラインの新商品をリリースしました。1つは「BATH SERIES」(シャンプー、トリートメント、フェイス&ボディソープ)、もう1つは「RITUAL」(ターゲットセラム、フェイスマスク、ミスト美容液)です。

従来のラピデム製品のイメージを一新するような両シリーズのデザインを担当したのは、デザイン会社「ROOM810(ルームハート)」の伊藤巧さんと土屋奈緒さん。ひょんなきっかけで伊藤さんを知り、そのデザインに惚れ込んだラピデム社長の近藤たっての依頼で実現したお仕事の裏側と、デザインに込められた思いをうかがいました。

元イメージに近いものからかけ離れたものまで段階を踏んだアイディア

――まずはお2人のこれまでの経歴について教えて下さい。

伊藤巧
伊藤巧さん

伊藤 アパレル企業のプレスを経てROOM810に入社したのが11年ほど前です。入社当初はデザイナーとして勤務していましたが、現在は主にグラフィックデザインのディレクションやセールス、ブランディングを担当しています。

土屋奈緒さん
土屋奈緒さん

土屋 食品のラベルやパッケージをデザインする会社を経て、5~6年前にROOM810に入社しました。今はいわゆる「紙もの」…パンフレットやポスター、小冊子のデザインを担当しつつ、クライアントのイベントプロモーションやブランディングにも携わっています。

――今回、ラピデムの商品デザインを手掛けることになったきっかけは何だったんですか?

伊藤 僕はディレクションやセールスを行う人間なので、デザインを担当することはほとんどないのですが、時々個人的なつながりからショップのロゴやカードのデザインをご相談いただいて「巧くんにデザインしてほしい」と指名されることがあるんです。その1つが、共通の知人を通じて近藤さんの目に留まり、ご紹介いただいたのがきっかけです。近藤さんとお会いした際に、化粧品のデザインということをうかがって、ぜひ我が社の女性スタッフたちに携わってもらいたいと考え、前職で商品デザインを多く経験してきたつっちー(土屋さん)ともう1人の女性スタッフと僕の3人で担当させていただくことになりました。

土屋 最初のデザイン案を持ってきたので、よかったらご覧になってください。

――ありがとうございます。どちらも何パターンもデザイン案があったのですね。

土屋 はい。最初に近藤さんとお会いしてお話をうかがったときに、すでにデザインの完成形がぼんやりと見えていらっしゃるような印象を受けました。それでも外部のデザイン会社に依頼をされたということは、きっと外から見たラピデムのイメージも取り入れたかったんだろうなと考えて、段階を踏んでデザインを出してみようということになったんです。元々のラピデムのイメージを生かしたもの、少し変化したもの、今までのイメージからかけ離れたものという感じで。

LAPIDEM HAIRCARE NUTRITION MOIST SHAMPOO&TREATMENT
LAPIDEM HAIRCARE NUTRITION MOIST SHAMPOO&TREATMENT

――まずはバスケアシリーズからうかがっていきます。

伊藤 これは僕の出した、現在のラピデムのイメージから一番離れたデザインが原案になっています。

「フィボナッチ数列」ってご存知ですか? 自然界のさまざまな現象…例えば木の枝分かれやひまわりの螺旋、うさぎのつがいなどを表した公式のことです。この式に沿って作られた造形物は「黄金比」と呼ばれる美しいバランスを備えると言われているんですけど、これって、緻密に計算された製品を送り出しているラピデムとすごくリンクするし、製品の成分配合などに数学的、科学的な側面をすごく感じたので、フィボナッチ数列と黄金比のエッセンスをラベルに取り入れました。何より、製品を使用することで内面から美しい体を手に入れるという「ウェルネス」とフィボナッチ数列という概念がすごく似ている要素だと感じました。

――ラベル上部に記された「F0 = 0,F1 = 1,Fn+2 = Fn + Fn+1 (n ≥ 0)」という謎の式が、フィボナッチ数列でしょうか?

伊藤 この公式はフィボナッチ数列の漸化式で、ラピデムのロゴの上部に配置した「0.1.1.2.3~」が実際のフィボナッチ数列です。どの数字も前2つの数字を足した数字という規則の数列ですね。ラベル上の表記を囲うような四角い枠組みは黄金比を図形化したものです。当初は右下部分に、黄金比が取り入れられているミロのヴィーナスを模したアイコンも加えていました。

――最終的にヴィーナスはカットされたのですね。

伊藤 このシリーズは一般消費者向け商品であると同時に、アメニティとしてホテルに卸す商品だったので、様々なホテルの客室になじむようなデザインである必要があったんです。僕は前者を意識してデザインしていたので、近藤さんから「ホテルで使うにはアイコニックすぎる」とご意見をいただき、無機質なデザインの中にコンセプトを盛り込むために、中央に漸化式を加えました。

あとは、ちょっとしたことではありますが、3品が並んだときにどれを使えばいいか、感覚的にわかりやすいように、大きなナンバリングを加えました。シャンプーして、コンディショナーして、体を洗うという順番の人が多いと思ったので、シャンプーが1、コンディショナーが2、ボディウォッシュが3というナンバリングです。

LAPIDEM HAIRCARE NUTRITION MOIST SHAMPOO&TREATMENT
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青のグラデーションを容器に落とし込むまでの試行錯誤

――続いて「RITUAL」シリーズについても聞かせてください。

伊藤 BATH SERIESはもともと販売されていた商品のリニューアルでしたが、RITUALはまったく新しいラインの商品だったので、大変でしたね。デザイン案もかなりたくさん積みました。

土屋 事前に、日本ならではの精神性をコンセプトにしているとはうかがっていたので、控えめなものからぶっとんだものまで、和のテイストを織り交ぜたデザインを考案しました。枯山水をイメージしたもの、お寺の窓の形をアイコンにしたもの、歌舞伎の隈取りの色味をモチーフにしたもの、禅の始祖であるダルマをポップに表現したものなどなど……。その中から採用されたのが、私の出した青のグラデーションデザインでした。

LAPIDEM RITUAL
LAPIDEM RITUAL

――この商品の実物を見た時、青のグラデーションが本当に美しくて感動しました。どのような意図でデザインされたんですか?

土屋 ヒントは、近藤さんの「葛飾北斎の浮世絵のようなブルーが好き」という言葉でした。私もあのブルーは日本独特のものだし、アイコニックだなと思っていたので、いっそボトルにそのブルーを使ってしまおうと。さらにそれをグラデーションにしたら、浮世絵みたいだし、ボトルが並んだときのたたずまいがきれいじゃないかなと思いました。

伊藤 これ、ガラスの容器に直接色を塗ってグラデーションを表現しているんです。

――え、そうなんですか!

土屋 はい。イメージに近い青を出すために、塗装屋さんにすごくがんばっていただきました(笑)。ガラスの着彩って、材質や大きさによって工程がかなり変わるので、簡単に「このデザイン案と同じように作ってください」とはお願いできないんです。「下は0%、上は100%、ここらへんで50%になるよう塗装してください」とか「この色合いを出すために2色を混ぜてみたらどうでしょう」とか、なるべく具体的に落とし込みながら、イメージを必死に伝えました。

伊藤 本当にすごくこだわってやりとりしていたよね。サンプルも確か3~4回くらい出したんじゃなかったっけ。

土屋 ああ、そうだったね。私は近藤さんが求めるものをどうすれば実現できるか、そして塗装屋さんがそれをどうすればスムーズに実現できるかを考えて、アイディアを提案するような役割を担っていた感じです。

――クライアントであるラピデムと実際に手を動かす塗装屋さんをつなぐために、心がけたことはありますか?

土屋 関わる人全員としっかり話をすることですかね。塗装屋さんには塗装屋さんなりの事情や言い分があって、「ここが精一杯」というラインもあるので、会話のなかでそれがどこなのかを探って、折り合いをつけていくと言いますか。リクエストしていたものと違うものがあがってきても「できていないじゃないですか」とは言わず、「何が難しいんですか?」と聞いた上で、「じゃあこういうやり方はどうですか?」と提案するようにしました。

サンプルが完成したあとも、液体を入れたり、太陽光で確認したり、実際に使っていただくときのことを想定して色味を確認して、「たぶんこれくらい調整したら近藤さんのイメージに通りになる」と考えて、また相談してを繰り返して、完成品を見たら……すごくきれいでした。出来上がりまではけっこう不安もあったので、「塗装屋さんって本当にすごい!」と思いました。

LAPIDEM RITUAL
LAPIDEM RITUAL

「ラピデムは妥協しないし厳しいけれど、優しいブランドだと思う」

――お話をうかがっていると、どちらのデザインにも大変な労力をかけていただいたことがよくわかりました。なぜこれほどに、ラピデムの商品に力を注いでいただいたのでしょうか?

伊藤 近藤さんがめちゃくちゃいい人だったのが最大の理由ですね。仕事として対価をいただいている以上、努力したり、かっこいいものを納品するのは当たり前ではあるんですけど、近藤さんのクリエイティブを前にした時のヒリヒリした感じが個人的に好きなので、対価以上に力になってあげたいと思いました。

あと、うちの社員って女性が圧倒的に多いので、兼ねてから「彼女たちが楽しめるような仕事をさせてあげたい」とも思っていました。化粧品や美容品のデザインって女性にとってワクワクするような仕事だと思うし、女性が多いうちの会社の強みを生かせると思ったので、より力が入ったところもありますね。

――対象の本質をとらえ、イメージを具現化することを仕事とするデザイナーの目から見て、ラピデムはどんなブランドに見えますか?

伊藤 近藤さんの手を抜かない、妥協しないところがそのまま商品に反映されているんじゃないかなと思います。ご自身が病気になったことを受けて事業を思いつくバイタリティもすごいし、お話をうかがっていると、事業戦略もすごくよく練られている。策士だなと思いました(笑)。

土屋 商品やウェブサイト、そして近藤さんの人柄も含めて、優しいなと。妥協しないし、厳しいけれど、思いやりや気遣いもきちんとある。それがブランドにそのまま出ている気がします。

伊藤 一番最初にお話をうかがいに行ったときも、本当にしっかりとした資料を準備していただいて、やりたいことを伝えようという気持ちもものすごく感じました。

土屋 誠意を感じたよね。

伊藤 うん。何より、仕事がとにかく楽しいんだろうなと。つっちーの言う通り、人間性がプロダクトに出ていると思います。

――近藤は、伊藤さんがインスタグラムで公開されている落語をモチーフにしたタイポグラフィーや、古き良き日本を感じさせるようなデザインがとても好きなんだそうです。日本のカルチャーやデザインの今度の可能性について、ぜひ伊藤さんのご意見を聞かせてください。

伊藤 そうですねえ……。あくまで外部の人間としての意見ですが、伝統文化的ものは、その内部に関わっている方々自身が文化をつぶしにかかっているんじゃないかと感じます。製法技術とか、後継者問題とか、あれやっちゃだめ、これやっちゃだめとか。

その中で、歌舞伎なんかは、プロジェクションマッピングを取り入れたり、初音ミクとコラボレーションしたりとどんどん新しい手法を取り入れて、歌舞伎を知らない人に対して間口を広げて挑戦をしているんですけど、僕の好きな落語業界はそういった意識があまり見えないというか。「自分たちがいいと思うものをひたすら真っすぐ作り続けてウン十年」、みたいな。

――「職人」という言葉から想起されるイメージそのままですね。

伊藤 ええ、職人気質なんです。例えば伝統文化を若い人や海外に広げようとしたら、時代や生育環境が違う人にも受け入れやすいような、何らかのリデザインが必要だと思うんです。このままだと、中国とかインドなどの勢いのある国に、日本の伝統文化をまるごと買われかねない。PRという側面からもどんどんいろんなことを試してほしいですし、願わくば僕もそのお手伝いをしたいです。

――ありがとうございました。最後にお二方が今後やってみたいことやご自身の展望などについても聞かせてください。

伊藤 ROOM810としての目標は、化粧品、美容品やアパレルに関する業務を増やしていくことです。個人としての野望は、先程言ったとおり、落語や伝統文化のブランディングに携わること。ありがたいことに、最近は商工会議所や区役所などパブリックな団体とお仕事させていただくことも増えているので、経験を積み上げて、いつか実現したいですね。

土屋 この業界に入って初めて手掛けた、パッケージデザインの仕事をこれからも手がけられたらと思いますし、大好きな食に関わる仕事もやってみたいですね。大きな野望はないんですけど、とにかくずっと何かを作り続けていられたらいいなと思います。

伊藤巧さんと土屋奈緒さん
伊藤巧さんと土屋奈緒さん

伊藤巧(いとう・たくみ)
1987年、東京都生まれ。アパレル企業のプレスを経て、創設間もないROOM810に入社。落語(特に立川談志)、三島由紀夫や上村一夫の作品などをこよなく愛する。

土屋奈緒(つちや・なお)
1987年、神奈川県生まれ。インテリアデザイナーだった母親の影響で、幼少期からデザイナーを志す。料理が得意で、プロ並の肉料理をスタッフにふるまうこともあるそうだ。

ROOM810
https://room810.jp/